インザナ地獄

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大学の話をしましょうか―最高学府のデバイスとポテンシャル (中公新書ラクレ)

森博嗣の本というか文章はミステリ以外のものの方が個人的に好き。
私大、文系の教授であるうちの師匠との考え方や問題意識の違いがいろいろありそうなので買ってみた。
経済、社会、教育、学生に対する考え方の差は色々とあったが、大学の組織が抱える問題については
結構同じような意見があったりする。
もっとも森博嗣はそうした組織に積極的に関わろうとするタイプではなく、うちの師匠は関わるタイプだが。

まあそんな誰にも通じない話はともかく、森博嗣らしくわかるところはわかる、わからないところはわからない、
しかし周りの意見はともかく自分が考えたり感じたりしている事ははっきり述べるという内容。

まず学生論だが、世間が騒いでいるほど学生の質が落ちたとは森博嗣はあまり考えていないようだ。
ハングリー精神みたいなものが欠けてる印象はあるが、無理やりださせようとしてもそれは無理でしょうとも。
ニートについて、働いて社会に迷惑をかける人間よりは、働かないで社会に迷惑をかけない人間の方がありがたい、
自分が働く理由の第一として「金を稼ぐため」とも。
道徳論や義務論に走らないあたりは学者らしいところだと思った。

大学論についてはとにかく助手から助教授になってからは雑務が多くて、本人としては教授になんてなりたくなかった、
というような記述があり、一般のイメージに比べて研究以外の仕事が多いという事が触れられている。
まあこれについてはうちの師匠からも色々聞いているので、私大でもおそらくは同じではないかと。
うちの師匠から聞いた、高校を回って推薦で学生を集めるための営業活動をするといった話は無かったので、
このあたりはやはりレベル低い私大と国公立の大学の差か。
細かい給料や仕事量の差はよくわからないが、どちらも雑務が多いのは確かだろうなあ。
研究費に関しては、色々知らない話が読めた。予算を取るための申請に色々問題があるとも。
とりあえず、私大にせよ国公立にせよ、大学教授という高い知識を持っている(はず)の人材に、
その頭脳を活用しない雑務が多いというのは大学の持つ問題点だろう。

最後の作家になった理由などのところでは、工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫)の水柿君シリーズとは違うところが多く、
ああ、「あくまで」小説であるというのは本当だったんだなとしみじみ。
大学の仕事(前述の雑務)よりも小説を書く方が楽しいなども水柿君との違いか。
大学をやめるという意思が大分早いうちからあったというのは意外なところ。
助手時代が一番学問面では充実していたというような言及もあり、助教授の仕事に対する不満が感じられるかな?

全体としての印象は、大学生や卒業生が読むよりは高校生や中学生が読むとためになるんじゃないかなと。
大学生になってしまえば俺もそうだけどゼミの先生などからいくらでも話は聞けるだろうし。
あるいは子供を育てる親の立場の人が読むのもありか。
Q&Aで話が進んでいくので読みやすいのもそういった層向けな感じ。
大学生が読むならば、大学1年生のうちぐらいに読んでおくといいかもしれない。
下手な、「大学で何をするべきか」系の本よりは役立つと思う。

水柿君シリーズが終わった事もあり、森博嗣の本は当分買うことが無くなりそうだなあ……。
水柿君シリーズ以外で読んでてニヤニヤできるタイプがあれば読んでみたいんだけど、どうだろ。
糸冬